休み時間もそろそろ終わりそうな頃、私は屋上へと向かった。
小学校の頃から、私は嫌な事がある度に授業をサボって屋上に行き、ぼんやりと空を眺めていた。
屋上の扉を開けて中に入り、給水塔の真下に腰を下ろし空を見上げる。
しばらくして授業の始まりを告げるチャイムが学校中に鳴り響いたが、私は気にせずそのまま空を眺めていた。
集団の中にいても一人なら、いっそ周りに誰もいない方が気が楽だ。
そんな事を考えていると、屋上の扉が開く音が耳に入る。
誰だろう…
始業ベルが鳴ってから屋上に来るなんて、私と同じロクな人間じゃないだろうから気にしなくてもいいか。
「あ…」
「え?」
自分のすぐ近くで声が聞こえて、私は反射的に顔をそちらに向けた。
驚いた顔をした男子が私を見ている。
あれ? この人見覚えがある。
………思い出した。
小学校の時同じクラスだった、黒長博クン。
黒長クンは何と言うか…クラスで浮いた存在だった。
いつもムッとした顔で、いきなりキレて暴れたりするから孤立していた。
私も同じく、クラスから孤立していたが。
嫌な事があって授業をサボって屋上に行き、空をぼんやり眺めていると、いつの間にか黒長クンも屋上に来ていた。
でも私とは離れた所に座って、私も馴れ合うのは嫌だったから声をかけなかった。
二人で空を眺める事は何度もあったけれど、一度も口を聞かないまま小学校を卒業した。
中学に入ってからも、何度か屋上で会う事はあったけれど、それでも会話はしなかった。
そして、ある日から黒長クンは屋上に来なくなった。
噂であの桐山ファミリーの一員になったと聞いて、耳を疑ったっけ。
たまたま町で桐山ファミリーご一行様を見かけた時、黒長クンは笑っていた。
黒長クンの笑顔を見たのは、それが初めてだった。
それを見て思った。
黒長クンには『居場所』が出来たんだな、と。
黒長クンは私と同じで『居場所』を作らない人間だと決めつけていたから、『居場所』が出来て幸せそうに笑っている黒長クンを見て、
別の世界に行ってしまったような気がして…
ちょっと淋しかった。
私が昔の事を思い出していると、いつの間にか黒長クンが私のすぐ隣に腰を下ろしている。
こんな近くに座った事、今までなかったのにどうして…
「あの…さん…だよね?」
「え? あ、そうだけど…」
「覚えてないかもしれないけど…俺、黒長博。小学校の時同じクラスだったし、よく屋上で会ったよね」
「…私も覚えてるよ」
「あ、覚えててくれたんだ」
そう言って黒長クンはニッコリと笑う。
黒長クン、私の事覚えてたんだ…
何か、ちょっと…ホントにちょっとだけど嬉しい。
「黒長クン…随分明るくなったね。私、黒長クンが笑うトコ初めて見た」
「ヘヘ…よく言われる。不良グループに入って明るくなったなんて変だよね」
照れたように笑う黒長クンを見て、ますます黒長クンが遠くに行ってしまったようで胸が痛む。
「変じゃないよ…黒長クンは自分の『居場所』を見つけたのよ、だから…」
「居場所かぁ…確かにそうかも」
「私は今でも居場所がココだから、私になんか構ってないで自分の居場所に戻ったら?」
ワザと冷たく言って、空を見上げた。
一人は慣れてる。
元々一人だったんだから、黒長クンに『居場所』が出来ても辛くなんかない。
隣にいた黒長クンが動く気配を感じたけど、多分『居場所』に戻るんだろう。
私はそのまま空を見上げていた。
すると、いきなり私の視界が遮られた。
見えたのは空じゃなくて、黒長クンのアップ。
「な、何っ!?」
「ご、ごめん…さん、何だか淋しそうだったから…」
「淋しそうにしてる女の子を見たら、誰にでもこんな事するワケ!?」
「そういうワケじゃ…あの…あのね、さん」
「何?」
「ダメかもしれないけど…俺がさんの『居場所』にはなれないかな?」
「同情なら…」
「同情なんかじゃないよっ!」
私の言葉を遮って、黒長クンが真っ赤な顔で叫んだ。
「ずっと…ずっと気になってたんだ…小学校の時から。でも、小学校の時の俺、あんなだったし声かけられなくて…」
俯いたまま、さっきよりも顔を赤くして話す黒長クンを見て、胸がズキンと痛んだ。
「さん、今でも淋しそうだから、俺みたいにみんなと遊べば楽しいかなって…え? さん? どうしたの!? 泣かないでよ…」
「えっ?」
黒長クンに言われて、自分が泣いているのに気付いた。
黒長クンはポケットからハンカチを出してオロオロしている。
「………いいの?」
「いいよ。だって他のみんなも時々彼女連れて来てみんなで遊んだりしてるから」
「そうじゃなくて! 黒長クンはいいの? こんな…孤立してるような人間を…」
「いいに決まってるじゃないか。孤立してようが何だろうが、さんはさんだもん。
そんなさんを俺は…好き…になったんだから…」
「黒長クン…」
「俺じゃ頼りにならないし、不満かもしれないけど…俺はさんが、今の俺みたいに笑えるような『居場所』になりたいんだ…」
「……もうココに来る事はないわね」
「そう…そうだよね。俺じゃ嫌だよね…」
「自分の『居場所』が出来たから、ココに来る必要はないって言ったの!」
私も顔を真っ赤にして叫んだ。
「小学校の時…私も黒長クンの事が気になってた。今思うと、あの時二人で空を眺めていたあの場所が、
私の『居場所』だったのかもしれない…」
「さん…」
「私も…今の黒長クンみたいに笑えるかな?」
「笑えるよ! 俺が笑えるようにしてみせる!」
そう言って黒長クンは自分の手を私の手に重ねてきた。
「だから、今度屋上に来るときは二人で空を見ようね…」
これから二人で見る空は、今までと違って見えるような気がした。
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一番難産なドリでした。
最初はこんな暗い感じの話にするつもりはなくて、主人公ちゃんと博は幼馴染みという設定で、二人で屋上でお弁当食べてる時に
「ほっぺにご飯粒ついてる〜」とか言ってキスしちゃう話にするつもりだったんですよ。
それが、何でこんな暗い感じの話になっちゃったんだろう…
本文中でも語られてますが、ウチの博は小学校〜中一初期の頃、不良と言うよりは問題児扱いされてた子です。
「みんなムカつく。みんな消えちゃえばいいのに…ブツブツ…」みたいな感じの、ちょっと精神的にヤバそうな問題児だった、って設定です。
でも、桐山ファミリーに入って何故か性格が丸くなってしまったという…こんな設定ウチだけだろうな(汗)
本編では主人公ちゃんにキスしてますが、実際はそんな事する度胸はないキャラだと思ってます。
この話の博、何か滝口クンとちょっとキャラ被ってるような、被っていないような…