最果ての唄



目を開くと、そこは闇の世界だった。
静寂だけが、その場を支配していた。
暗く冷たい、闇の世界。
最後に記憶に残っているのは、

突然の衝撃。
オレンジ色の空。
向けられた銃口。
………充の顔。

「俺は…死んだのか」
桐山はゆっくりと体を起こし、呟いた。
不思議な感覚だった。
何もかもが酷く冷たく感じる以外は、生きている時と何も変わらなかった。
銃創もなくなっていたし、喋る事も考える事も出来た。
ふと、暗闇だけの世界に一点の小さな光が遠くに現れた。
桐山は立ち上がり、その小さな光に向かって歩き出した。
光に近付くにつれ、それは人の形をしている事が分かった。
「充?」
体から薄い光を放ち、瞳を閉じたままの少年の目の前まで来ると、桐山はその少年に向かってそう呼びかけた。
呼びかけに応えるかのように、少年はゆっくりと瞳を開くと、目の前の人物をじっと見つめる。
少年の体を包んでいた光は、いつの間にか消えていた。
「………ボス」
桐山の思った通り、その少年は充だった。
「充…」
もう一歩踏み出そうとした桐山の頬に痛みが走る。
充が桐山の頬を拳で殴りつけたのだった。
「すまなかった」
「…金井を殺して、黒長も笹川も殺して、俺を殺して、このゲームに乗るって言ったのに、何でこんなトコにいるんだよっ!」
充の目からは涙が零れ落ちていた。
「ゲームに乗るって言ったんだったら、どうして最後まで生き延びなかったんだよ!
俺…ボスがゲームに乗るって決めたのなら、俺達の分までずっと生きてて欲しいって、そう思ってたのに」
桐山は驚きのあまり目を見開いた。
充が自分を殴りつけたのは、自分に殺された私怨などではなく、自分が命を落とした事に対しての怒りだと知ったからだ。
「でも…」
充はゆっくりと桐山に近付くと、その体を強く抱き締めた。
「ずっとボスに会いたいって、そう思ってた。俺の気持ちがボスをここに呼んじゃったのかもしれない。
謝らなきゃいけないのは俺の方だよ。ごめん、ボス」
「充が謝る事はない。死んだのは俺の不注意だ。充は何も悪くない。それに…」
「それに?」
「これで良かったと思う。最後に、お前の顔が頭に浮かんだ。俺もお前に会いたいと思ったのかもしれない」
「ボス…」
「これからは、ずっと充と一緒にいられるから」
「ボスが嫌だって言ったって、もう絶対離さない。もう離ればなれになるのは嫌だ。こんな辛い思いをするのは嫌だ」
充は、抱き締めていた桐山の体を解放すると、代わりに桐山の手を強く握り締めた。
「行こう、ボス」
どこへ? とは聞かなかった。
充と一緒なら、どこへ行っても構わないと思ったから。
闇の中を、手を強く握り合いながら二人で歩き出した。
何もかもが酷く冷たい世界の中で、握った手と手がとても暖かかった。

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※以前バトロワオンリーのパンフレットに掲載され、現在は自サイトで掲載中の作品です。

不特定多数の人が見るイベントパンフに掲載されるから、エロはもちろんダメだし、あまりカップリング色濃いのも
マズいかと思ったので(パンフを見る人の中には沼桐嫌いな人もいるかもしれないし)、沼桐風味の健全にしました。
ホントはちゅーくらいさせようかとも思ったんですが(苦笑)
私は充とボスは死後に出会って、ずっと一緒にいて欲しいと思ってます。
充はボスが自分を殺した事を許せるだろうし、ボスも死後には自分の「充が好き」という気持ちに気付いているので
(ウチの場合は、ですが)きっと幸せになってくれると思います。




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